■FOREVER世界中のプリキュアその他からの愛を受け取り、愛乃さんはフォーエバーラブリーと化しました。
全ての愛を守らんとするフォーエバーさん。憎しみに燃えるレッドさんの中にある愛すらも守ってみせると対峙する。
神としてレッドが守っていた惑星レッド。
そこはもはや草木も生えぬ命無き星、夢も希望もありません。
栄枯盛衰、盛者必衰。どんなに豊かに命あふれる星であったとしても、いつかは消える運命なのです。
勇気は徒労に、優しさは報われない、希望は砕け散る。
愛では救われないのだとレッドさん…。
神ですら運命には抗えない。
だとしたら神とはいったい何なのか…。
この「神」の定義が作中で成されていないのが端々で面倒ではある。
いや、神だからこそ文句を言う相手がおらず、同じ神にぶつけるしかなかったというコトなのやもしれぬが。
そんな恨み節たっぷりのレッドさんに、ラブリーさんは視点を変えて説き伏せる。
そこまでの憎しみ、怒り、滅びた星への思いを持ち続けているだなんて凄い! それこそ愛だよ!!
レッドやミラージュが愛に対して向ける強い憎しみ。その憎しみこそが愛の表れ。映し鏡なのです。
第2話でサイアークから逃げ出したヒメルダに、「足が速い」「勝てなくても何度も立ち向かって偉い!」などとおだて上げたた愛乃さん。
その視点変化、考え方の変換によるカウンセリング能力がここでも発揮されるのです。
愛とは、心の中で生まれるモノであり、それは人と人の繋がりの中で伝わっていくモノでもある。
だから愛は消えない。誰かが消し去る事も出来はしない。
レッドさんの中にも愛はまだある。もはやそれを否定できない。
とはいえ、命はいつか滅びるというレッドさんの言う事も分かります。
地球とて、いつかは肥大化した太陽に飲み込まれると言われている。
命が無くなれば、永遠のように続くと思われた愛の連鎖も消えてしまうのではないか…。
いつか消えるからこそ愛おしい、と地球の神ブルーは言います。
確かに、滅びない消えないモノよりも、いつ消えるか壊れるかも分からないモノの方にこそ、人は愛情を注ぎたがる。
プラスチックの皿と陶器の皿を同じには扱わないだろう…と「美味しんぼ」か何かでも言うておったな。
いつか消えるからこそ、存在する今を大切にして愛おしく思う。
愛は永遠に続いていく…が、決して永遠ではない…。
矛盾しているようだけれど、そういう回答にならざるを得ないのか。
ラブリーの言う事も、レッドの言う事も正しいし、同じ事。
鏡に映ると反転して見えるけど、それは同じモノなのだ。
人の心の中にある鏡は、憎しみや哀しみを反射して他者へと広めていく力がある。
ミラージュやレッドが、自分と同じくらいお前達も不幸になれと世界を呪ったように。
しかしもって、それは逆に愛を広める力にもなる。
不幸な者に手を差し伸べ、幸福を広めることも。
敵も味方も「鏡」というアイテムを多用していて、“オシャレ”や“視点変化”といったテーマを表すアイテムなんだろうなーとは思っていましたが、拡散効果を表すアイテムでもあったのかと納得。
ここまで「鏡」に集約することが出来たなら、もっと鏡への言及を増やしてくれても好かったかもしれないなぁ。
画面によく映ってはいるけど、言及や説明はあまり無かったからのぅ。
レッドさんはイノセントな愛を思い出し、惑星レッドの衝突は回避されました。世界中のプリキュアが押し返す展開もちょっと…ちょっとだけ期待してはいましたけどね。
レッドさんは星の再興目指して再び頑張る気力を持つ。かつて存在し失ったモノを取り戻せるワケではないけれど、当時持っていたイノセントな気持ちだけは取り戻す事は出来る。
その気持ちさえ取り戻すことが出来れば、前に進むコトは出来る。
ブルーは兄であるレッドと共に惑星レッドの復興に尽力する為、引っ越しするとの事。
神無き後の地球はプリキュアさん達、地球人で守るのです。
まぁ、元々神が何かしてくれたって印象も無いんですけど。
なんか最近、仮面ライダーで同じような最終回を見たことが…。
偶然、ヒメルダさんが愛の結晶を投げて当たった愛乃めぐみがプリキュアさんとなって地球を救う物語。
そしてまた新たな結晶が愛乃さん達の手に託されている。
次代、次代へ、その愛が受け継がれて広がっていく。
――といったところで終幕。
例年、集合絵などのパリッとしたラストカットで終わる印象が強いだけに、二つの結晶が寄り添うふんわりとしたラストカットで終わるのが新鮮でした。
愛乃さんとヒメルダとの出会いから始まった物語でしたが、最後は愛乃さんと誠司君の関係で締める。
終ぞ、劇中でふたりの明確な関係は提示しませんでしたが、「大事な人が出来たらあげる」という発言の後での寄り添うラストカットなので、前向きな回答を視聴者に託したのかなとホッコリできます。
実に穏やかな引きで、また今までのシリーズとも違う余韻を味わえる最終回となったのではないでしょうか。
■HAPINESS「ハピネスチャージ」の名の通り「幸せ」がテーマのシリーズ11作目。
とはいえ「ドキドキ」から引き続き「愛」というテーマの要素も多分に強く、いやむしろそっちがやはりメインテーマかと感じさせるほどでもありました。
既に世界中にプリキュアという存在が知れ渡っていて、「愛」という共通テーマを持ち合わせている事(あとチーフPが同じである事)から、個人的には「ドキドキ!プリキュア」後の世界観を描く、続編的な物語だと認識しながら観て来ました。
実際、そういう視点で見ていくと「ハピネスチャージ」でのやりたい事の輪郭が端々で見え易くなる為、連作として見るのは実に楽しかったです。
「ドキドキ!プリキュア」では主人公が「幸福の王子」に例えられていました。
自分の持つ宝石や金を市民に与え、市民の生活は楽になったが自らはみすぼらしくなり、最後には溶鉱炉で溶かされてしまう王子の話。
「ドキドキ」では、王子から愛(宝石)を貰った市民がまた別の誰かに愛を与えるという連鎖が繋がって行けば、王子一人で救うよりもずっと大勢の人間が救われ、バッドエンドも回避できるのではないか…という回答が提示されている。
そして「ハピネスチャージプリキュア!」では、神が愛の結晶をばら撒いて世界中にプリキュアが存在する世界から物語が始まる。
王子(神)から宝石を貰った市民(プリキュア)が別の市民を救う世界が既に出来上がっている。
ではその出来上がっているかのような世界の中で「ハピネス」は何を目指すのかというと、「市民」から「市民」、さらにその「市民」から「市民」への愛の継承を目指していた。
だから主人公である愛乃さんは、神(王子)から直接プリキュアになる為の結晶を貰ってはいない。
キュアプリンセスという「市民」役を介して結晶を手にしたのです。
神を1世代目とするなら、ラブリーは3世代目。
直接には神の愛を受け取っていない世代となる。
そして、そんな3世代目となるラブリーさんが世界を救ったのです。
それは、もはや神が直接に愛を配り歩く必要が無い事を意味している。
だからこそ、最終回、神は地球を去ることを決められた。
神が居なくても、幸福の王子がいなくても大丈夫だと信じられる世界の構築。
それこそが「ドキドキ!」の後を継いだ「ハピネスチャージ」の役割だったのです。
プリキュアも10周年を経て、チーフPも3代目。
直接に10年前の現場を知る人も少なくなったかと思いますが、それでも「プリキュア」というシリーズを次へと運んでいく使命を果たそうとしている。
たとえかつての現場を知らずとも、今を任された自分達だけで繋いでみせるという気概も表れている…のかもしれない。
■LOVE WORLD「ハピネスチャージ」特有のアプローチというと、「恋愛」や「世界のプリキュア」というモノが非常にキャッチーな部分かなと印象深い。
とはいえ、放送前に「恋愛要素を入れるよ~」とアナウンスされてボク個人が期待した方向性と、実際に番組内で描かれた「恋愛」要素とは結構な乖離があって、戸惑ったことも多かったです。
個人的には軽いラブコメみたいな…夏頃にあったヒメルダロマンス回みたいなモノを1年間やるのかなーと期待していたので、実際に放送された恋愛の面倒くさい部分大フィーチャー祭りは驚きと戸惑いが強かった。
まぁ、こっちが勝手な方向性を期待しただけなんですけどね。
ただ、「恋愛」というモノを描きたいというよりも、大テーマの「イノセント」回帰論を「恋愛」というモチーフを使って描くとか、幸福と不幸を同時に生み出す事象として「恋愛」を用いてみた…という、装置として使いたかったのかなーという印象を受けました。
他のモノでも代用出来そう…とはちょっと思ってしまうんですよ。
いや、別にそこは代用出来てもイイのは当たり前なのかな…。結局は「恋愛モノ」というキーワードに対してボク自身の視野が狭かったコトによる実際との乖離が問題なのか。
自分の中に「もうちょっとなんかこう…ほれ…」みたいな部分が取り残されているんだな…うん。
同様の感情は「世界のプリキュア」に対しても抱えている。
そこに対しての期待値が高かったからなのか、「も、もっと…」という思いが重いというか。
どちらもしっかりテーマに即した描かれ方はされていて、描写がおかしいとか、テーマとブレているといった事は全然無いのです。
むしろブレているなら「それはおかしい」と吐き出せるのだけれど、そうではないからこそ自分の中で宙ぶらりんの思いが残っているのではと思う。
つまり、世界のプリキュアに会いに行ってダンスを教えてもらう話が見たかった…。
■ENDINGいやぁ~…今年も奇妙で、味わい深く、変な番組だったぜぇ…
…と毎年プリキュアさんを見終えると、そう思います。
王道のような…カウンターのような…はぐらかされて気付いたら横から殴られているような。
「ハピネスチャージ」さんも御多分に漏れず「うわ、そう来るのか!」という位置からの攻撃が多かった。
特にですが、12月中に幻影帝国を倒し、一旦メインのストーリーをハッピーエンドにまで至らせてしまい、そこから新章に突入させるという構成にはかなり驚かされました。
めでたしめでたしのハッピーエンドから零れ落ちた者へ焦点を当てて行く最終章は、多くの既存ハッピーエンドに対する反抗的一撃のようにすら感じました。
ロックだ…(ぇ)。
「ハッピーエンド? ふざけんなよく見ろ!!」というのを、今やカウンターではなくメジャータイトルとなってしまった「プリキュア」でやるのが感動的ですらあります。これはずるい…そして凄い…。
「プリキュア」というヤツは本当に…
10年観ていてもよく分からないのですよ…
そこが一番好きなトコロなんですがね。
エンディングの後にはラブリーさんとフローラさんのバトンタッチ。
スーパー戦隊ではもはやお馴染みとなったあれが遂にプリキュアさんでも…!
デカレンジャーがお初だったので、プリキュアに波及するまで10年かかったのですね…。
感慨深いです。
次の10年へ繋げて行くため…
次世代へと継承されるために…
世界に愛を広げなければ…
といったところで。
「ハピネスチャージプリキュア!」のレビューを終えます。
制作者、関係者の皆様、このテキストを読んでいる貴方へ、
心より感謝を申し上げます。
ありがとうございました。
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プリキュア 各話レビュー
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コメント
ジョギングしてたのはディーゼルさんだと思う…(ぇ
>>この「神」の定義が作中で成されていないのが端々で面倒ではある。
ホントですね。お話がすすんでいけば、DJサガラのようにその正体がしだいに明らかにされていくのかと思いきや、神様、ぜんぜんそんなこともなく、最終回になってもレッドとブルーが兄弟だということしか明かされず、あまつさえ地球の神が地球を去るという職場放棄の暴挙に出るというありさまでしたよね。ハピネスチャージプリキュアは、世界観といいますか、物語の背景や人物の設定といったところがいまひとつあやふやといいますか、いい加減だったようです。そこらへんが見ていてモヤモヤして「奇妙で変な番組」だと感じたのだとおもいます。この物語が伝えたい愛やら幸せの意味みたいなものは理解できたので、物語全体の1年をとおしてのながれは良かったとおもいます。その点をふまえると、やはり物語の設定を、「神」の定義もふくめて、きっちり練ってから世界観を組み立てていってほしかったなと。そこが、そこだけが残念でした。でも大好きでした、ハピネスチャージプリキュア。
これからも、がんばってくださいませ!
2015/01/26 09:58 by ミルク苺 URL 編集
◆コメントありがとうございます!◆
2話で「神様ですわ」って説明されただけで、それ以上は結局分からないままでしたね。
別に神様でもいいんですが、何が出来て何が出来ないのかぐらいは教えておいて欲しかったです。神様なんて万能感ある存在だと変に期待してしまいますし。
死んだ人間は甦らせられるが、サイヤ人は倒せないとか…。
その辺の説明をもうちょっと厚くしてほしかったという気持ちはボクもあります。
分かると「あ、筋は通ってる」と作りに納得し易い作品だっただけに。
まぁ1年一緒にいるとそういう「変な」部分も好きになるのですけどねー。
2015/01/30 20:49 by TJ-type1@管理人 URL 編集
恋の未確認
個々のフォローが雑だったのは少し残念ですね。きちんと拾いきって終わったものがあまりないので、そこがもどかしさになっているような。
ヒメルダさんの勇気とかめぐみやクラスメイトとの絆とか、きちんとした結論の出ないまま中盤以降は投げっぱなしでしたし。
序盤はほとんど主人公だったのに、いつの間にやらすっかりモブですよキュアプリンセス(必殺技バンクでだけラブリーと濃密に絡んでるのが逆に切ない)
世界のプリキュアは期待を煽ってた割に存在感の薄いまま終わりましたし。
いや最終章は仕方ないとしたって、それよりもむしろその直前、第一次クライマックスの王国決戦では活躍する姿出しときましょうよ?!
まさかの誠司くん闇落ちは完全洗脳状態で、闇誠司くん一切の自己主張しませんし。
……あまりにも完璧超人と化してしまったため、嫉妬に駆られグチグチ喚く誠司くんとか描写しようがなくなりましたかね。めぐみともちょっといい雰囲気になり、爆発させる恨みなんか残ってなさそうでしたし。
(レッドさんはミラージュ取り替えされるより前か、せめて王国滅びた直後に彼を落としておけば……あそこがきっと最大のチャンスだったのに……)
(めぐみの「残された問題」はすごく納得だっただけに、その対であり解答編でもあるべき誠司くんの方をうまくまとめきれかったのはつくづく惜しい)
三幹部は倒された後エピローグまで出てこないとか、終盤は存在感の消滅していた市民の皆さんとか、カード帖もカードもまだ残ってるのに使わないとか、その他色々……。
大森さんだけは終始一貫、よくも悪くもぶれませんでしたけど。
ラブリーが逆転したとたんご飯が云々言い出しましたが、あれってつまり、普段の腹ペコキャラは作ってたってことですか……切羽詰まって素が出てるときは言わないんですね……。
今後たった一人でバカップルの面倒見なくちゃいけなくなったレッドさんは、とっても気の毒に思います。
……これが、嫉妬でよそ様のセカイを滅ぼしかけた神様への、罰……!(なおちゃっかりとファントムさんは逃げた模様)(というか、実はブルーも、めぐみの告白から逃げただけだったりしませんかね)
2015/01/31 02:13 by kanata URL 編集
◆コメントありがとうございます!◆
終わってみると、基本的に描かれている事には皆スジが通っているし、ブレているわけでもないのにモヤッと感は幾らか残るかもしれません。
テーマに対しては非常に真摯に描いていると思いますが、それが視聴者(大人)の期待ベクトルとは違う描き方だったんですかね。答えは同じだけど数式の解答方法が違うというか。
この辺は視聴者がついつい勝手に期待してしまう部分が大きいだけに難しい部分かなと思いますが。
おそらくハピネスチャージも2週目を見ると印象の大きく変わるシリーズなんだろうなぁとは予想できます。
2015/02/02 23:42 by TJ-type1@管理人 URL 編集